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60人が織りなす難航論理パズル…『Return of the Obra Dinn』レビュー

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Switchで『Return of the Obra Dinn』(オブラ・ディン号の帰港)をプレイしました。
これまた9月公開のNintendo Directで存在を知り、モノトーン調ながらリアリティのあるグラフィックとミステリーゲームとしてのゲーム性に惹かれて気になっていたタイトルでした。

なかなか難易度が高く、紆余曲折を経てのクリアとなりました。
その紆余曲折が、結果的に「このゲーム難しそうだなあ」って方にもおすすめしたいプレイ法だと感じたのでその辺も交えて紹介していきます。

 

ec.nintendo.com

Nintendo Switchのほか、PS4、Steamでも発売中。 

 

※本作を紹介するにあたって序盤のネタバレがあります。まったく内容を知らずにプレイしたい方は、ご注意ください。

 

60人の乗員乗客それぞれの身元を割り出す論理パズル

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舞台は19世紀初頭、乗員・乗客60人が消息不明となって帰ってきた商船「オブラ・ディン号」
この船でいったい何が起こったのか、保険調査官となって「オブラ・ディン号」に乗り込み、事件の全容を調べ上げるのが目的の一人称視点ミステリーアドベンチャーです。

 

初期情報として手元に与えられるのが、一冊の手記。
「乗員・乗客 60人のリスト」「船内で描かれたスケッチ画」「航海図/船内図」、そして事件のあらましを記載していくための空白ページ。全十章からなる空白ページが、この船に起こった出来事の壮絶さを予感させる。

 

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調査する上でキーになってくるのが、死の瞬間を垣間見ることが出来る懐中時計。
船内で死体を発見すると懐中時計を掲げ、その死者が「死ぬ間際に耳にした会話(音)」と「死の瞬間のまま静止した空間」が再生される。空間は、まわりが静止した状態のまま探索することが出来るので、この人物が誰なのか死因は何なのか、くまなく観察していくことが要求される。

死体は、船内にそのまま残されているとは限りません。
いま現在、死体は残っていないものの「死の瞬間、その近くに存在した死体」に対して懐中時計を掲げ、さらに死の瞬間へと深入りしていくことで調査を進めていく場面も。死体から死体へ、時系列を遡るように辿っていき事件の前後関係を捉えよう。

 

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ひとつの探索が終わると、事件の概要が手記に記され、死者の情報を記入する場面へ。
死者は誰なのか、死因は何なのか、殺されたのであればその犯人は誰なのか。
もちろん、この段階で3つの項目を埋められるワケではありません。この画面の場面ではこの死者の身元まではまだ分からない。船内を探索し、ほかの死体から同様に懐中時計を使って得られる情報とも照らし合わせ、絞り込んでいく必要があります。

こうして船内にある死体の探索から事件を探り、手帳へ記入していくことを繰り返し、最終的には60人それぞれの身元と安否を割り出していきます

 

 

船外・船内が映えるモノトーン調

本作でまず目を引くのが、全編に渡ってモノトーンで描かれるそのグラフィック。

 

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最初に載せた、船外の月明かりとどこまでも黒い海という描写も独特の雰囲気を演出していて好きなのですが、船内探索に入ってからの人工的な直線が際立って見える光景も印象的でした。白黒なのに、パシャパシャ撮りたくなるアングルが多い。死体が写り込んでたりもして、ネタバレ的にもあまり多くは載せられませんが…笑。

この手のレトロ表現って、個人的にはチープさと紙一重な気がしてしまうのですが、このゲームにおいては失われし記憶を辿っていくようなゲーム性とも相まっていて、すごく効果的だったと感じました。

 

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死体のなかには、なかなか惨たらしい死に様をしている瞬間も登場します。
これ、カラーの鮮明なグラフィックだったら正視に耐えない有り様だったんじゃないか、とも思えるので、そういう点もひとつモノトーン描写を採った利点だったんじゃないでしょうか。(まあ、いずれにしろCERO:Dではありますが…)

 

 

誰にも依らない視点から紐解くミステリー

探索をする上で本作がユニークだな、と感じたのが、プレーヤーが事件に遭遇した当事者ではなく後日、事件が終わった後に訪れた保険調査官の視点で探索するという点。

当事者1人の視点から見聞きした情報を元に推理を進めていくのではなく─
死の瞬間を垣間見れる懐中時計を通して、当時船内にいた誰しもが見ることが出来なかった超越的な視点から事件を観察していく
見るべきポイントは、事件の現場、死者のまわりだけとは限らない。事件が発生した瞬間、すこし離れた位置にいた人物や出来事が、また別の事件で成された会話と紐付いて身元や安否を割り出すことに繋がるかもしれない。

 

─この時、この人がこの部屋にいたということは…?
─この死者、二つ前の事件の時にはあそこに居たんじゃないか…?
─この事件は、あのとき会話していたやつか。じゃあ、この死者の身元は…?

多角的な視点から手掛かりを探り、発見し、思いもしなかった情報と結び付き、真相へと迫っていく瞬間が、本作の醍醐味だと言えるでしょう。
「あーそういうことか!」と、何度となく膝を打ちました。

 

ただ、あらゆることがヒントになると言っても太刀打ちできない要素もあって…。
それがどうも本作には、「会話中の英語の訛り」でその人物の国籍を特定できる、という要素があるようなんです。こればかりは英語力に自信のある人でないと難しい関門になるかもしれません。

おそらくはその弊害で、必ずしも論理的に確信を持って解答できることばかりではありません。そこはもう、ある程度の予測を立てて「当てずっぽう」で埋めていってしまいましょう…笑。

裏を返せば、日本語訳による不都合が生じてしまう場面はこれぐらいなもので。会話の内容を手掛かりに推理しなきゃいけない局面も多いゲームにおいて、ローカライズの品質に不足は感じませんでした。タイプライターのかすれた印字を模したフォントも良かった。

 

 

「正否判定は3人ずつ」が生み出す絶妙なバランス

…とは言え、60人分もの情報をすべて正しく記入するなんて大変。
そこで指標になってくるのが「正しい情報を3人埋める」たびに挿入される正否判定。 

 

※【ネタバレ注意】序盤3人の身元と安否が表示されます。また、この正否演出を実プレイ時に見たい方もご注意を。

重めな効果音とともに手記がめくられ、仮定のメモ書きから正式にタイプライターで印字された文字に変わっていく。

「やった、ここまでの推理は間違っていなかった!」
特に序盤においては雲を掴むような選択候補のなかから選んでいるので、この正否が通った安堵感が心地いい。
3人ずつ全60人だから都合20回は見ることになる演出なのですが、尻上がりに情報が埋められる機会も増えてくるので、何度見ても嬉しくクセになることでしょう。

 

ここで3人確定させたことが次の推理に繋がることもあれば、3人正しく入力したつもりが何も起こらなければいずれかか間違っていたことになるので、それまでの推理を振り返るきっかけにもなる。
また上述した「当てずっぽう」も、たとえば2人の確信持てる情報を埋めた段階で、残る1人を総当りして手早く正否判定を確かめる、なんて活かし方も出来る。

 

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檣楼員(しょうろういん)だということは突き止めたけど、この中の誰だ!?…えーい、総当たりしちゃえ。

 

総じて「正否判定は3人ずつ」というのが、絶妙なルール設計でした
このゲームに良いテンポ感と達成感を生み、60人それぞれの情報を埋めるという途方もない目的に指標を与える良いアクセントになっていた。

 

 

災い転じて福となす

ただまあ、ここまで書いてきたような理屈通りのプレイが、最初からできたワケではありません。
ルールの要領が掴めていなかったというのもあるのですが、「今はまだ本格的に推理する段階じゃないんだろうな」と思って、ひたすら船内探索しては見つけた死体に懐中時計を掲げるプレイを続けていました。
気付いた時には、手掛かりをすべて見終えたのに身元特定もほとんどままならないまま、バッドエンディングを迎えられるところまで来てしまいました…汗。

もちろん、すべての手掛かりはあとで何度でも見返すことが出来るのですが。それにしたって序盤の事件について推理していくには、ノイズとなる情報が多すぎる。

 

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…と言うことで、別のセーブスロットで最初から。2周かけてのクリアになりました。
上段の1周目データは、全編かけて特定できたのがわずか6人。対して下段は、同じ進捗度の場面で39人まで特定できています。その後、程なくして全60人の特定も達成しています。

ちなみに…ネタバレ防止のためプレイ時間は伏せています。…が、いっそのこと最初からやり直そう!と思えるぐらいのプレイボリュームと思っていただければ。

 

邪道だということは承知の上で、この2周やっちゃうの案外悪くなかったのでオススメしたいです。
オブラ・ディン号でなにが起こったのか、その全体像を把握できた上で、イチから探索に当たる。すいすい進めてしまっていた1周目には気付かなかった視野の広がりを実感する楽しさがありました
1周目、「まずは解き進められなくても気にしない、見るだけでもいい」という面持ちで、そこで見聞きした情報も活かして2周目に挑む。「このゲーム、面白そうだけど難しそうだなあ」という方にも、丁度いい難易度になるプレイ方法じゃないでしょうか。

 

そんなこんなで『Return of the Obra Dinn』での推理はとても濃密で面白かったです!
紆余曲折はしましたが…笑、結果的にはきちんと60人の身元と安否を割り出せるよう綿密に織り込まれ構成されている妙にも唸りました。そもそもジャンル的には人を選ぶかもしれないけど、2周目戦法でもなんでもいいから、広くプレイしてほしいな、と思えるタイトルでした。

 

 

↓劇中人物に視点に依らない推理という意味では、推理ドラマ『安楽椅子探偵』シリーズに似た面持ちでプレイしてた。