かんづめステップ

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新鮮さのなかに秘めた熟成…『M-1グランプリ2019』

2020年になりましたが、書きそびれていた昨年の話題がちょっと続きます。
お付き合い頂ければ幸いです。

 

昨年12月22日(日)に生放送されたM-1グランプリ2019』
2018年には霜降り明星が優勝し、新たな世代の台頭を示したことも影響してか、今大会は初決勝進出者が7組。令和最初の大会にふさわしい顔触れが揃った大会でした。
誰が勝つのか予想できないワクワク感。この顔触れで大丈夫なのかという緊張感。しかし、蓋を開けてみればここまでの盛り上がりを見せる大会になるとは思いもよらなかった。

そんな2019年のM-1グランプリを振り返っていきます。

 

natalie.mu

熟成された武器、ミルクボーイ圧巻

令和最初のM-1王者に輝いたのはご存知の通り、ミルクボーイ

 

早速、この年末年始の演劇番組などには軒並み出ずっぱりの大活躍。
極めつけは、ツッコミ・内海の特技「けん玉」がフィーチャーされて、NHK紅白歌合戦での三山ひろしのけん玉世界記録挑戦企画へのゲスト出演。M-1グランプリからわずか1週間チョイでの、この大舞台は驚かされました。

 

そんなミルクボーイが、M-1グランプリで披露したのが「行ったり来たり漫才」(By松本人志)。
ひとつのテーマ(コーンフレーク、モナカ…)に対して、「肯定と否定、賛意と偏見」をテンポよく繰り返していく漫才。ひとつのテーマのなかで、鋭いキラーワードとともに両極の「共感」で揺さぶられる感覚が高揚感を演出していた。

この行ったり来たり漫才の形を初めて見たのは、2012年の『ぐるナイ』おもしろ荘でした。
もう8年も前だったのか!
当時は「彼女を『抱けるやろ』『抱けへんやろ』」の二択を行ったり来たりしていた気がします。それまでに見たことのないフォーマットで面白かったので、「あー、あれかー」とすぐ思い出した。

 

M-1グランプリは、「漫才のフォーマットの大会」という側面があります。
笑い飯の「Wボケ」を皮切りに、オードリーの「ズレ漫才」やナイツの「ヤホー漫才」など、漫才において新たな発明を持ち込んだコンビが飛躍する傾向が強い。言い換えれば、一言でこういうネタだと形容できる漫才。
その観点に立てば、ミルクボーイの「行ったり来たり漫才」も、もう何年か前に決勝進出を果たしていてもおかしくなかったと思います。

 

しかし、ミルクボーイは長らく決勝進出を阻まれ、苦節の時期を過ごす。
その結果、彼らの漫才はより熟成を極め、傑作「コーンフレーク」を携えて晴れて決勝戦の舞台で初めて「行ったり来たり漫才」を披露するに至った巡り合わせ。
ナイツ塙によるM-1グランプリのエッセイ『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』にも書かれていましたが、初決勝で優勝を逃すと次回以降、優勝を掴み取る難易度が上がります。ミルクボーイも、半端な形で「行ったり来たり漫才」を披露していたら、以降はどんな傑作であろうと優勝することは難しかったと思います。

 

新鮮さと熟成度のバランスが際立つタイミングで披露できたことが、ミルクボーイ最大の幸運だったと言えるでしょう。

 

まさしく今回のM-1グランプリにふさわしい優勝だったと思います。
客席から「〇〇を頂きました」というお決まりのツカミが、転じて「トロフィーを頂きました」と締めくくられたのも見事な結末でした!

 

 

意表を突かれた躍進、ぺこぱ

ぺこぱの「ノリツッコまない漫才」(By松本人志)も今大会を席巻しました。
(今回、松ちゃんの審査コメントでの漫才フォーマットの形容が的確だったので、そのまま多用してます)

 

シュウペイの奔放なボケに、松陰寺太勇がツッコむかと思いきや肯定してくれる裏切りの連続が心地いい。時にメタ気味な掛け合いやステージ上の動きなど、あの手この手で繰り広げられる展開も憎めず楽しい。

 

初めて見たのは、これまた『ぐるナイ』おもしろ荘。2019年の元旦でした。
その回の優勝を獲得するなど、しっかり爪痕を残す面白さだった反面、松陰寺太勇という芸名、派手なメイクに和服、ローラーシューズという出で立ちに「キャラ芸人」然として見ていましたね。
肯定してみせる漫才も、このキャラならではの気障ったらしさという趣きが強くて、漫才としての斬新さをちゃんと測れていなかったかも。
しかし、ぺこぱとしても激動の1年を経て、衣装こそ大人しくなったものの、こんなM-1グランプリの決勝戦という大舞台でハネるなんて予想だにできなかった大番狂わせで、今大会を象徴するカタルシスを覚えました。

 

入り口はキャラ芸人然としながら、M-1グランプリで旋風を起こすその姿は、オードリーの再来を思わせました。
そして、これから名実ともにそうなっていけるか、ぺこぱにとって正念場の1年が始まろうとしている。2人が出演しているYouTubeチャンネルを見ていると、漫才で見せる表情以上には器用さを備えているコンビだと思うので期待したい。

ちなみに…こうなってくると2020年元旦のおもしろ荘を制したエイトブリッジも、ぺこぱらに続く活躍が出来るのか楽しみなところ。

 

 

自己最高の準優勝、かまいたち

今回ラストイヤーとして挑んだかまいたちキングオブコントとの2冠が期待され続けてきましたが、惜しくも準優勝に終わりました。

 

ただ、やはり安定感という点ではミルクボーイやぺこぱに負けない地力の強さを感じる。
2018年にも増して4分間に詰め込まれた構成の妙が光りまくってて、一分の隙もない面白さでしたね。これが大会開始2組目に披露されて、一気にボルテージ上げておきながら、これで優勝できないっていうんだから今大会のレベルの高さを物語っています。

 

自分的には、2人の言い合いがヒートアップしていくなか、不意に差し込まれる「もし俺が謝ってこられてきてたとしたら、絶対に認められてたと思うか?」というワケの分からないセンテンスが大好き。何度聞いても読み解けない、だけど惹かれる不思議な語感。このさじ加減が堪らない。

…ただ、ブログ等で当てどなく書き進めていると、こういうワケの分からない文章になってしまうことが割とあるので気をつけなければ。

 

 

和牛の敗退と、第2期M-1の折り返し地点

トップ3を中心に語ってきましたが今大会でもうひとつ特筆したいのが和牛。 
3年連続準優勝ながら今大会はまさかの準決勝敗退。着実に敗者復活を物にしながらも、最終決戦行きには一歩及ばず無念の敗退を喫した。

 

2018年のM-1グランプリについての記事で、「霜降り明星の優勝が劇的だった反動で翌年以降、和牛が優勝する画が想像できない」と書いていたのですが、その通りの結果になってしまった。
■集大成と新世代が交錯する『M-1グランプリ2018』 - かんづめステップ

 

和牛と言えば、3年連続準優勝だけでなく2015年のM-1グランプリ復活(=第2期)以降において、唯一5大会すべて決勝進出を果たしてきたコンビでもあります。
まさしく第2期M-1グランプリを代表する存在を担ってきたのが和牛でした。

そんな彼らの敗退。そして同時に、今大会を機に卒業することも明言しました。
第2期M-1グランプリとして5大会目という折り返し地点で訪れたこの展開は、今後のM-1グランプリ全体としても大きな節目になりそうな気がします。

 

www.tokyo-sports.co.jp

そして、4分間というM-1グランプリのレギュレーションでは必ずしも本領発揮できていなかったと評されてきた和牛が、その制約に縛られず全幅の漫才に立ち返るという展開もまた熱い。 

 

 

これもまたM-1の楽しさ

…と言うことで遅くなりましたが、自分なりに『M-1グランプリ』を振り返ってみました。

 

拙いながらも何かしら自分で書き終えるまでは、先入観など入ってしまわないよう他のかたのレビュー記事などをあまり読まないようにしていたので、これからあれこれ確認していこうと思います。
こういう感想戦もまた、M-1グランプリの面白さというところがありますね。

 

一番気になっているのは『岡村隆史のオールナイトニッポン』 昨年12月26日(木)に、NON STYLE石田をゲストに迎えてM-1グランプリを語り合った回を録音してあるので、ようやく聴けます…笑。 

ちなみに…M-1語りと並んで恒例企画になりつつあるので、この前々回に放送された「岡-1グランプリ」。M-1グランプリをパロディ化した、徹底した理不尽不条理賞レース。ミキ昴生の活躍が光る!

 

 

最後に、これから放送されるものでオススメしたいのがこちら。 

natalie.mu

勝戦の舞台裏に密着したドキュメンタリー『M-1アナザーストーリー』。
関西ローカルなので、全国的には放送後に解禁されるであろうTVer等でご覧頂きたいのですが…。前回、霜降り明星の躍進を軸にしのぎを削りあった芸人らのドラマが色濃く描かれていて最高だったので、今年も期待してます。M-1グランプリ好きならば是非とも観てほしい。