12月21日(日)、『M-1グランプリ2025』が放送されました。
昨年のM-1グランプリが、第20回記念大会にして令和ロマンによる史上初の2連覇を達成し、ひとつの区切りを迎えました。
言うなら今年は仕切り直しの大会。
「M-1新時代」のキャッチコピーが付され*1、いつにも増して予想できない戦線になっていました。
そんな今年のM-1グランプリを見ていきましょう。
なお、これまでのM-1記事では優勝者から話題ごとに語っていましたが、今回は普通に出番順で振り返っていきます。
ファーストラウンド
ヤーレンズ
トップバッターは、決勝進出3年目のヤーレンズ。
2連覇の令和ロマンが2年ともトップバッターだったので彼ら以外でM-1決勝戦の口火を切るというだけで新鮮味がある。
令和ロマンの連覇で麻痺してるかもしれないけど、本来は不利な番手。
その逆境をものともしない、いきなりのフルスロットルで今大会を盛り上げてくれました。
関西以外でどれくらい伝わってるのか分からないけど、「『いたって真剣です』、ねえともこさん」が大好き。
「ゼロオクロック」からの観覧席への呼びかけも挟んで、変幻自在ぶりが心地よかった。
強いて言えば、あのワードは伏線になんじゃ?、と気を張るうちに次の掛け合いをひとつ聞き落としてしまったりして、近年の伏線漫才の弊害も感じた。まあ、見てる側の悪癖でもありますが。
めぞん
過去の戦績は3回戦止まりから一躍決勝進出を決めたダークホース・めぞん。
「恋人のふり」をめぐる掛け合いで静かにスタートしつつ、「本当に強がってたのかよ!」から空気が一変したのが鮮やかだった。
大オチに歌が来るタイプとしては理想的な曲線を描いていたと思う。
カナメストーン (敗者復活戦)
今年の敗者復活戦を制したのは、カナメストーンでした。
今年、ラストイヤーを迎える注目株の1組として名前はよく聞いていたけど、漫才を見るのは初めて。
零士の甲高いツッコミに最初こそ気圧されつつ、でも不思議とイヤじゃなくクセにさせられる。
敗者復活戦から漫才2本に、陽気な平場の掛け合いも相まって来年以降、活躍が広がりそうだ。
ここで敗者復活戦の話題をもうひとつ。
惜しくもカナメストーンに敗れはしたものの、ミキがとても良かった。
ひと頃、迷走していたように見えていたけど、ここ1~2年、めちゃくちゃ面白くなっている。
YouTube「マンザイのミキ」に挙がってる漫才がどれも絶品、なかでも今回にも通ずる型を見つけたであろう「回転寿司」をぜひ見て欲しい。
『THE MANZAI 2022』でビートたけしに酷評されたことに端を発する、岡-1グランプリ(ナインティナインのオールナイトニッポン)での小競り合いも、ミキ昴生の魅力が存分に発揮されてて大好きなのですが、いやいや漫才で真正面から見返す日は近い!
エバース
個人的に今大会、一番期待していたエバース。
率直に、最高だった!
大枠はすでに見たことのある漫才だったので*2、一瞬ヒヤリとしましたが。
だからこそ細部の磨き上げでこんなにも見違える、それこそ玉のような漫才に仕上がるんだ、と驚かされました。
「町田」「思われないよ実際は」「こわっ」。
そこに特別なワードはなくとも町田の言い返しの機微や間が絶妙で、抜群に上手い。
今大会で一番好きな漫才でした。
真空ジェシカ
昨年3位、そして5年連続決勝進出の真空ジェシカ。
舞台への登場から何から遊び心ふんだんで、5年連続ならではの境地を覗かせる。
それでいて今なおこの独創性溢れる漫才を生み出す凄みも漂っていた。
惜しむらくは、時間配分的にも一番の決め所であったであろう「思い出が一個しかない」走馬灯のくだりが、同じ走馬灯ボケでも霜降り明星の「しょうもない人生」のほうが切れ味鋭くて、勝手にそれと比べて見劣りを感じてしまった。
ヨネダ2000
3年ぶり決勝進出のヨネダ2000。
漫才か?漫才じゃないか?論争を掘り返してなんだけど、さすがに漫才じゃなかった。
その上で、でもひたすらに楽しい時間だった。
審査結果発表のモニター越しで、あそこまでふざけて見せるのもヨネダ2000らしい。
先日の『THE W』が物議を醸したとき、ヨネダ2000はちゃんとM-1決勝に行ってる、と比較対象にされる言い草を度々見ましたが。
それで言うなら、M-1グランプリの舞台ですら、彼女たちの世界観には収まりきらないんだろうな。
たくろう
関西賞レースでは以前からおなじみのたくろう。M-1決勝は初進出。
出番順もあってか自分的には正直、まったく響かなかった…。
リングアナのアナウンスに返していく、言わば大喜利構成もそこまで鋭いワードセンスに思えなかった。
けど、この日の決勝会場にはハマったのか高評価を叩き出していて驚かされた。
ミルクボーイ駒場の「赤木の挙動不審ぶりにちゃんと理由を設けたのが良かった」という審査コメントが言い得てて、それで言うと自分は従前のたくろうも見たことがあったから本当にフラットには見れてなかったのかも…。
ドンデコルテ
五里霧中 望むところ!が響いたドンデコルテ。
自分にとって、そんな彼らが頭角を現したのは昨年のM-1敗者復活戦。
すでにベテランの風格漂いながらも、彗星のごとく現れたな、という印象だった。
その時は恋愛論を説きつつ、自身は未練を断ち切れないさまを情けなくも雄弁に語っていました。
それをとことんまで煮詰めて滾らせた、全身全霊の自虐弁舌。
「国も認める低所得」に端を発する、誰しも少なからず耳の痛さも伴う殺傷力の高いキラーフレーズの連打。
観客をも巻き込む演説漫才という意味では、さや香が「見せ算」でやりたかったのはこれだったんだろうな、という幻影も。
見事でした。
豪快キャプテン
べーやんと山下ギャンブルゴリラから成る豪快キャプテン。
や、やましたギャンブルゴリラァ?…と名前から何からインパクト抜群のコンビですが、転じてそんな2人が「ちっちゃいカバン」ひとつで言い争い、ヒートアップしていくさまが面白かった。
「ちっちゃいカバン」という提案も反論も、どちらも変なことは言ってない。
なのにこれだけ話が転がっていくのが魅力だな、と感じた。
そして、この構図がもっと大ハネする題材があるような気がする。ミルクボーイが「コーンフレーク」を見つけたように、その時を期待したい。
ママタルト
2年連続決勝進出の重量級・ママタルト。
まずは「じゃあ、あんたが太ってみろよ」のキャッチフレーズに大笑いさせられた。*3
鈴緒によじ登って神社を大破させてしまう下りが最高でしたね。
「ドカンガシャングシャンドカンガシャングシャン…」
この擬音語とともに驚きの表情を、時間たっぷりに使う度胸。…と同時に、ここがピークになっちゃったのが惜しかった。なにかこう、このぶっ壊れた神社をもとに展開を続けて欲しかった。
最終決戦
最終決戦へとコマを進めたのは、エバース、ドンデコルテ、たくろうの3組。
真空ジェシカやヤーレンズがここで敗退。常連組は、過去の傑作とも比べられてしまうのが厳しいハードルになってきますね。
ドンデコルテ
ファーストの持ち味を活かしつつ、今度は「名物おじさんデビュー直前」。
つくづく渡辺銀次の理路だけは整然としている弁舌が素晴らしい。
M-1決勝戦でここまで存在感を示し、ドンデコルテは2026年 大活躍間違いなしだろう。
早晩、「国も認める低所得」の悲哀もなくなっていく。
その時に、彼らがどこに着眼点を置いて漫才を構成していくのかも楽しみだ。
エバース
今度は、町田が「腹話術師の人形」に。
佐々木の腹話術がなにげに上手かったり、町田が演じる表情の奇怪ぶりで見せていく反面、車に比べると佐々木の突飛な提案がパワーダウンしちゃったのかなあ。
また、エバースはネタを書いてる方/書いてない方でパワーバランスが偏っていることを公言しているコンビ*4でもある。「町田は佐々木の操り人形」。
もしそういったメタファーも込めた漫才だったのであれば、もっと自己言及に徹してガチにエグってくるところまで踏み込んで欲しかったかもしれない。
優勝まであと一歩…なのだけど。
正統派のしゃべくり漫才として、ここからもう一段駆け上がるには険しいルートに入ってしまったなあ、と感じます。
たくろう
ビバリーヒルズに舞台を変えても、オドオドから繰り出されるワードが止まらない。
うーん、ごめんなさい。
個人的には、ファーストに続いて、いまいち面白みを味わいきれなかった。
そんな自分とは裏腹に、赤木の言うことなすことに観客や審査員に至るまで会場中が爆笑に渦巻いていた。
完全にこの日の空気を持ってってしまっていた。
結果、審査員9人中8人もの票を得て、たくろうが優勝を決めました。
惜しくも満票優勝とはなりませんでしたが、審査員が9人いてこの得票率はかつてない圧勝です。
熱狂と冷静
…と言うことで、M-1新時代を告げる第1章はたくろうの優勝で幕を閉じました。
自分はその面白さに、今回はちょっと縁がなかったのですが。
転じて、M-1の熱狂ぶりをひとつ俯瞰して見ているような心地もありました。
この温度差が、いい意味で自分にとっての「仕切り直しの大会」になったな、と冷静に感じました。
この熱狂と自分の好みが合致するときを求めて、ここから始まるM-1グランプリに流れる新たなドラマを見続けていきたいと思います。
*1:放送が近づくに連れ「漫才万歳」のキャッチコピーのほうが上回ってきたけど。PVが今年もかっこいい
*2:当初、一昨年のM-1敗者復活戦で披露した漫才かな、と思ったのですが違って。自分が見たのは、昨年のABCお笑いグランプリででした
*3:ちなみに昨年は「デカすぎるにもほどがある!」。ドラマ繋がり
*4:賞金を獲得したら、その配分は19対1にするというのをよく言っている