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クジャクのダンスは誰のため?… ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』

とかく親子の絆や因縁がそこかしこで描かれたドラマだった。

 

www.tbs.co.jp

 

1月~3月期のTBS金曜ドラマクジャクのダンス、誰が見た?』がとても面白かった。

 

父親が殺された事件の真相を追う娘と弁護士、過去の冤罪事件を巡るサスペンス。

タイトルの「クジャクのダンス、誰が見た?」はインドのことわざに由来し、誰も見ていないところで踊られたダンスに意味はあるのか、という問いを意味する。
今作では、事件の核心を「クジャクのダンス」になぞらえ、二転三転するストーリーが描かれていく。

 

この記事では、このドラマで見どころだと感じたポイントを振り返っていきます。

なお、浅見理都さんによる原作漫画のほうは未読です。あくまでドラマの感想記事ということで悪しからず。

 

遺族が、容疑者の冤罪を主張する構図

事件の真相を追い、冤罪を晴らすことに焦点を当てたストーリーはしばしば見ます。

近年では『エルピス —希望、あるいは災い—』が強く印象に残っています。
実在の冤罪事件にも着想を得て綿密に描かれた、センセーショナルなドラマだった。

 

そこに来て、今回の『クジャクのダンス、誰が見た?』。

冤罪を訴えるのが、父(リリー・フランキー)を殺された遺族である娘・山下心麦(広瀬すず)だという視点が新鮮だった。

 

心麦は、無念を抱えながらも父が遺した「遠藤友哉(成田凌)が犯人ではない」という手紙を信じ、弁護士・松風義輝(松山ケンイチ)に協力を仰ぐ。

事件を取材する記者・神井孝(磯村勇斗)は、手紙の真贋や22年前の事件を問い、心麦に揺さぶりを掛ける。

果たしてこの手紙は本物なのか。書かれた内容は真実なのか。

もしかしたら自分は、父を殺した犯人を自ら無罪放免にしようとしているのではないか

 

犯人への憎しみと、正義感や推定無罪との狭間で葛藤する心麦。

この観点が、これまでの冤罪モノとは違った珍しい構図で、観てみたいと思うフックとしてとても惹きつけられた。

 

 

…ただ、事件の真相を追うなかで複雑な背後関係が次々と明らかになっていき。

「遠藤友哉が、実はそのまま犯人なのではないか」
…という最大にして根源的な疑念が、少なくとも視聴者のなかでは早々に過ぎ去ってしまったのがもったいなかった。

中盤ぐらいまでは、この葛藤をじっくりと描いてほしかったな。

 

 

ベテラン俳優陣の意外な名演が光る

主要キャストの脇を固める俳優陣も個性的だった。

こういう有り体な言い方もなんだけど、おじさん俳優の新たな一面を見たと言うか。

 

酒井敏也が演じた屋台ラーメンの店主・染田進。バラエティで見せる面影がありながら、その奥に再起を図る信念と優しさが宿る表情が素敵で、だからこそ痛切だった。

存在感ある悪役のイメージが強い篠井英介。今作で演じた久世正勝は、正義感ゆえに一線を退いた刑事。行き過ぎた捜査に走る刑事・赤沢正を苛む「良心の呵責」として、その存在感を善性に発揮していた。

そんな赤沢正。昔気質の刑事でありながら裏の顔を秘め、暗躍している描写が、藤本隆宏が演じるキャラとしては意外なダーティーさだった。

22年前の事件で冤罪を被った遠藤力郎。酒向芳というキャスティングが、ごめんなさい…いかにも!って感じだったのですが、ストーリーを追うに連れ、その不器用な人間性に身をつまされた。

 

…と、ここまではほかの出演作も見たことがあった俳優陣だったのですが。

 

心麦たちの前に現れ、真相究明の協力を買って出た弁護士・鳴川徹。

演じたのは、間宮啓行
ごめんなさい、まったく存じ上げなかったのですが。演劇界のベテランで、民放連続ドラマは今作が初出演。道理で!

 

アクの強い関西弁と、いきなり心麦を「お嬢」と呼ぶ距離感の詰め方。警戒心を抱かせながらも、気付けば懐に入り込んでくるような陽気さで、目の離せないキャラだった。

そして、このドラマで何の利害もなく協力を買って出るなんて話があるわけはなく。

終盤にかけて明かされていくその素顔も含めて、間宮啓行の名演が今回のドラマで一番の発見だった。

 

 

クジャクのダンス」は誰のため?

※ネタバレ注意!! 事件の真犯人など直接的な明記は避けていますが最後の描写に対する考察などを書いていますので、ドラマを見る予定のある方はご注意ください。

 

 

回を追うごとに複雑さを増していく人間関係だったが、最後は一本に繋がり、ストンと腹落ちした

父が殺された事件と、22年前の事件。
数組の親子の絆も巻き込みながら繋がっていたなんて、ご都合主義と言われればそうかもしれないけど、興醒めするとかではなく、なかなか鮮やかだった。

 

事件の真相を知り、心麦が最後に触れたのが父・山下春生が、生前に遺したメッセージだった。

クジャクのダンス」は、事件の深淵で真犯人が企てた悪意ではなく、娘を思う父の優しさだった、という形でドラマは締めくくられた。

 

それは決して特別なものではなくて。

自分が大人になったことで、あの時、親がしてくれていたあれやこれに気付くことがある。

親の心子知らずじゃないけど当時は、誰も知ることもなく見ることもなく。

思えば、そういった親心ひとつひとつが身近な「クジャクのダンス」なのではないか。

 

誰も見ていないところで踊られたダンスに意味はあるのか、という問いに立ち返るならば、それはやはり意味があったと言いたい。

複雑な事件を見守った末に、そんな機微に触れられたドラマでした。