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黎明の鐘となるか…『いだてん ~東京オリムピック噺~』

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NHK大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』より

NHK大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺~』、毎週 楽しみに観ています。

人それぞれ好きなエンタメの力というのは大切で、2019年は毎週この作品を観ることが出来るというのは正直、かなり励みになります。

昨日2月10日(日)放送の第6回「お江戸日本橋」で、ひとつ序盤の区切りを付けたような回だったので、これまでを振り返りつつこれからの展開に思いを馳せたいと思います。

 

待望の宮藤官九郎脚本の大河ドラマ

やはりクドカン脚本の大河ドラマが実現した、ってのが一番嬉しいですよね。

朝ドラ『あまちゃん』の大ヒット以来、いずれ大河ドラマも担当されるだろうなと確実視されていたとは思いますが、一方であんまり史実に基づいた歴史ドラマを書かれるイメージがなかったので、どうなるのかなあ…と気をもんでいたら。

まさかの近現代!2020年を前に1964年の東京オリンピックを描く!
そう来たか!…と思わず膝を打つ企画で驚かされたのが2年あまり前の話。放送まで待ち侘びました。

この企画は、クドカンに書いてほしいとNHKが提案したのかなと思いきや、最近のインタビューによるとクドカン側からの提案だったそうで意外だった。
この先の展開にも言及し、今作に掛ける意気込みが伝わってオススメの記事です。

number.bunshun.jp

 

 

底抜けに謙虚、憎めない金栗四三

『いだてん』は2部構成で、初めて日本人がオリンピックに出場した1912年のストックホルムオリンピックと、1964年への東京オリンピック招致がリレー形式で展開されていきます。

そしてストックホルム編の主人公が、マラソン選手として初めてオリンピックに出場した金栗四三(かなくり しそう)(中村勘九郎)。
病弱だった幼少の頃から「走る」ことで体力をつけて克服し、嘉納治五郎(役所広司)が学長を務める東京高等師範学校に入学。ほどなくして四三が「マラソン」に出会うシーンの高揚感は、ここまでの回においては屈指の名シーンでした。

 

ラソン、引いては「スポーツ」との出会いと表現してもいいかもしれない。
「スポーツ」という言葉や概念が浸透していない時代、体を動かすということは移動のためであり生活のためであったところに、「走りたいから走る」「楽しむために運動する」「それを観て楽しむ」というスポーツそのものが持つ素晴らしさが活写されていくのは新鮮で、このドラマ特有の醍醐味だろうと思います。

 

そうして挑んだ羽田の予選会、素晴らしい記録を打ち立て見事、代表選手に選ばれた四三。
しかし、その謙虚さゆえか臆してか、初めはストックホルム行きの辞退を申し出ていたが憧れの嘉納治五郎の言葉に、出場を決意する。「黎明の鐘となれ!」

 

 

いかなるドラマが待っているのか、田畑政治

 後編、東京オリンピック招致編の主人公となるのが田畑政治(たばた まさじ)(阿部サダヲ)。
元々は水泳選手だったが健康面から現役を退いたのち、日本水泳界の牽引役を経て、東京オリンピック実現に向け奔走した人物。

…と言いたいところだけど当然ながらドラマでは、まだほとんど出番がないのでどのような人物なのかは分かっていません。
キャストとしては松坂桃李星野源松重豊といった面々が脇を固めるなか、どのようなドラマが紡がれていくのか。今はただ楽しみなところです。

 

ここら辺は、後編が本格的に始まっていく前に、関連書籍なんかに目を通して軽く予習しておきたいところ。

金栗四三と田畑政治 東京オリンピックを実現した男たち (中経の文庫)

 

 

2つの時代を繋ぐ語り部古今亭志ん生

 ストックホルム編と東京オリンピック招致編、2つの時代を繋ぐ第3の主人公たる人物が、落語家・古今亭志ん生(ビートたけし)。

 

このドラマは、志ん生の視点から落語という形で語られていく。
ある時は噺として、ある時は若き日の志ん生こと美濃部孝蔵(森山未來)の回想(語り)として。

なので正直、時系列があっち行ったりこっち行ったり飛び方がかなりややこしい…笑。
クドカンの十八番として自分含め好きな人には堪らないんだけど、大河ドラマとして見ると軽さは否めないのかもしれません。

 

しかし、そんな軽さのなかに不意に挿入される美濃部孝蔵自身の成長物語がまた堪らないんです。
荒れ果てた生活から、橘家円喬(松尾スズキ)との出会い、一念発起の弟子入り志願。四三のマラソンに負けず劣らず、真に尊敬できる師匠との出会いもまた胸打つものがありました。
ただ歴史として、志ん生が円喬に弟子入りしたという事実はなく、あくまで志ん生の自称だったとも言われています。
その言葉通り、孝蔵は円喬の弟子なのかイチ車夫に過ぎないのか、そんな思いを胸に今日もお江戸日本橋を駆け渡り、人知れず金栗四三美濃部孝蔵が交差していく第6回のラストシーンは鮮やかでした。

 

 

五りん、そして「東京オリムピック噺」とは

古今亭志ん生が高座に上がる1960年パート。

志ん生に飄々と弟子入りしに来たのが五りん(神木隆之介)。師匠を敬うでもなく振る舞う彼は、言わば現代っ子(1960年ですが…)的な価値観の持ち主。

落語家になりたいというよりは、亡くなった母の形見である「父からの手紙」に記された言葉から、まだ見ぬ父との馴れ初めを知りたいという動機が強い五りん。
手紙には「志ん生の富久の絶品」の一文。
ただ、志ん生の「富久」を聴いても思い当たる節はなく、手紙の解釈が違うのではないか…と新たな謎が生まれたのがこれまた第6回での展開。

五りんは他にも、早朝の水浴びという習慣を欠かさなかったり、志ん生の東京オリムピック噺に開口一番「マラソン!」と口を挟んだり、金栗四三との繋がりを想起させる要素も出てきています。
そもそも志ん生が披露した「東京オリムピック噺」とは、どのような全容を持つ噺なのか。落語に淡白な五りんが、この噺には惹かれたのは何故なのか。

五りんにまつわる展開は、まだまだ謎だらけ。
さしずめ『あまちゃん』で言うところの「春子と鈴鹿ひろ美の過去になにがあったのか」を思わせる伏線の巡らし方。いつか回収される日が待ち遠しい。

 

 

あまちゃんファミリー勢揃いへの期待

 …ってことでクドカン起用に限らず、たぶんに『あまちゃん』大ヒットを受けて制作された大河ドラマでもあります。

宮藤官九郎、音楽・大友良英、演出・井上剛、プロデューサー・訓覇圭…
スタッフ一同、『あまちゃん』チームが揃い、キャストもまた続投組が多い。まあ今作に限らず朝ドラから大河ドラマへのスライドは近年のNHKの常套ですけどね。

 

キャスト あまちゃん いだてん/役どころ
小泉今日子 天野春子 美津子/志ん生の長女
杉本哲太 大向大吉 永井道明/東京高師 教授・舎監
橋本愛 足立ユイ 小梅/浅草の遊女
ピエール瀧 梅頭 黒坂辛作/足袋店 店主
勝地涼 TOSHIYA(前髪クネ男!) 美川秀信/四三の親友・東京高師生
松尾スズキ 甲斐 橘家円喬/落語家
荒川良々 吉田正 今松/志ん生の弟子

このあと、東京オリンピック招致編でもまだまだ出てくるんじゃないでしょうか。

 

そこで期待せずにはいられないのが、「のん」(能年玲奈)待望論

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あまちゃん』の大ヒットとは対照的に、事務所トラブルに見舞われて、テレビや映画といった第一線での活躍が阻まれているのが歯痒い。能年玲奈からの改名の経緯にも納得できかねる。

しかし、そんな状況下でも『この世界の片隅に』で存在感を遺憾なく発揮した彼女の稀有な魅力を、このまま放っておくにはあまりにも惜しい。
ぜひとも『いだてん』で、活躍の場を用意してほしいと願わずにはいられません。

個人的には前畑秀子役に期待しちゃってるんですが、どうでしょうか。

 

 

評判は芳しく無く…だからこそ

 初回こそ期待度も高かったようですが、残念ながら第2回以降は視聴率もさほど奮わず、ネットニュースでは例のごとく「視聴率苦戦」の記事が散見されます。

前述の通り、時系列の切り取り方とか従来の大河ドラマとは趣きの異なる仕掛けが多様に重なっているので、そこら編の評判は仕方ないのかな、と思います。
しかし、だからこそこの新たな舵取りに価値がある。

 

1年後、このドラマこそが大河ドラマにおいて新たな一歩を踏み出した「黎明の鐘」であった評価されることを願って、今後の放送も楽しみにしたいと思います。

いだてん 前編 (NHK大河ドラマ・ガイド)

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