気付けば4ヶ月ぶりの更新です。
…と言うことでもう年の瀬、恒例の『M-1グランプリ2020』の話題を。
今年は新型コロナウイルスの影響を免れえず、一時は開催できるのか気を揉みましたが、1回戦は無観客で行われたり、予選スケジュールを一部簡略化するなどの対策のもと開催。
無事、12月20日(日)に決勝戦が生放送されました。
コロナ禍でのM-1グランプリ、そしてマヂカルラブリーの優勝を振り返っていきます。
最終決戦はかつてない大接戦
最終決戦における審査員7名の投票は以下の通り─
マヂカルラブリー 3票(サンドウィッチマン富澤、立川志らく、中川家・礼二)
おいでやすこが 2票(松本人志、上沼恵美子)
見取り図 2票(オール巨人、ナイツ塙)
3組の得票が、ここまで僅差にせめぎ合ったのはM-1史上初めてでした。
強いてあげれば、2016年大会で審査員が5名だった時に「銀シャリ3票、和牛1票、スーパーマラドーナ1票」というぐらい。
マヂカルラブリーに投票した3名のうち1人が、ほかのコンビに投票していたらどちらにも優勝が転び得たという大接戦でした。
ちなみに…開票も一律左側の審査員から、じゃなくて「マヂカルラブリー」3票目が最後にオープンされていたら、より手に汗握る審査発表になっていただろうな。これは今回の大接戦に限らず、かねてから得票に応じて盛り上がる開票順にしてほしい、と取り沙汰されてます。
マヂカルラブリーが打ち破る価値観
そんな大接戦を制したのがご覧のとおり、マヂカルラブリーでした。
今年3月、R-1ぐらんぷり2020で優勝を果たした野田クリスタルが、そのままM-1グランプリも制覇!霜降り明星・粗品に続く2冠を達成しました。
■“異例づくし”を制したのは!?…『R-1ぐらんぷり2020』 - かんづめステップ
M-1グランプリにおいては3年前、上沼恵美子に酷評され最下位に沈んだ経歴も…。
しかし今回、決して持ち味を変えることなく、野田クリスタルの世界観を存分に発揮させつつ今度はきちんと空気を掴んで離さなかったのが圧巻でした。
奇想天外だけど、導入は3年前のネタより分かりやすかったのも勝因かな。
ただ、個人的には普段必ずしも好みのタイプの漫才じゃないというのも本音です。
そもそもこれは「漫才」と呼べるのか、と今回の優勝に対して賛否も巻き起こっているようです。
しかし、M-1開催も危ぶまれ、各劇場にも思うように立てなかったであろうコロナ禍の1年を思えば…。
この舞台で漫才ができる喜びを爆発させるようなマヂカルラブリーの漫才、とくに最終決戦で披露した「吊り革」は、気付けばその一挙一動に理屈抜きに大笑いしていて、見ているこちら側までこの1年の閉塞感のようなものを打ち破られるような感覚がありました。
普段なら自分もこの優勝に異論を挟んでいた側かもしれないけれど。
この2020年においては、これこそがM-1グランプリの優勝に相応しい漫才だったんじゃないかと思うに至りましたね。
おいでやすこがの快進撃、錦鯉の破壊力
おいでやすこがも、ある種 今年ならではの空気感とマッチしていた。
ピン芸人同士の即席ユニットコンビによるM-1グランプリ決勝進出は初。
こがけんが不条理に唄い上げれば、おいでやす小田の雄叫びが響く。
それ全体がひとつのリズムを刻んでいるように、その快進撃とともに痛快だった。
R-1グランプリが新たに芸歴10年以下という制限を設けて出場資格を失った2人が、途端にこの大躍進。何があるか分かりませんね。ひるがえって、R-1グランプリとしては時の花形2人に出場してもらうことができないというジレンマ…。
最終決戦進出こそならなかったものの、錦鯉もインパクト抜群でした。
長谷川まさのりは現在49歳、M-1グランプリ歴代最年長の決勝進出者です。しかし、そんな彼が開口一番に言い放ったのが「俺ね、パチンコ台になりたいんだよね」。この底抜けにバカ丸出しの語感一発でやられましたね、最高でした。
熟達の見取り図、続くニューヨーク、オズワルド
異端な漫才が席巻していく中、最終決戦3組で唯一の正統派・見取り図は、それだけに悔しい結果だった。
今大会最多となる3度目の決勝進出だけに、実力は折り紙付き。
持ち前の伏線と回収を散りばめながらも年々、見やすい構成に落とし込まれていった洗練ぶりに見入りました。
ニューヨークは、個人的に一番期待していたコンビ。三連単予想も彼らに。
昨年最下位も、キングオブコント準優勝でそのイメージを払拭してのリベンジ。嶋佐のエピソードトークにちょくちょく挟まれる軽犯罪が気になって集中できない屋敷、彼らの持つダークさを嫌味なく織り交ぜた趣向がとても面白かった。ナイツ塙が評した通り、時事ネタ的な側面も併せ持っていて、爪痕は確実に残しましたね。
オズワルドも安定して不思議な理論を展開させていて大好きなネタでした。
この3組はいずれ優勝を手にしてほしい思いと同時に、千鳥・大悟の言葉じゃないけど、来年以降もぜひM-1グランプリ決勝戦で見たい面々ですね。
そのためにまた1年掛けて決勝戦に見合うネタを用意しなければならない、という当人に対しては酷な要求ですが…苦笑。
進化ぶりが裏目に?東京ホテイソン
東京ホテイソンは、昨年の敗者復活戦が良かったので今年の決勝進出が嬉しかった。
たけるの備中神楽を土台とした独特のツッコミが、しかし一時期は霜降り明星に似てると揶揄されましたが。転機となったのは、やはり「回文」ネタだったろうと思います。
今回の決勝戦で披露した「謎解き」は、その「回文」からさらに2度3度と進化させてきたネタで、この過程を知っていると「その手があったか!」の連続でちょっと感動モノでした。
ただ、そこを抜きに見てしまうと複雑さが際立ってしまい、残念ながら審査は振るわず。
2度3度の進化が今回の決勝進出には欠かせないステップだったが、決勝戦では一転して「回文」を披露していたらどういう審査になっていたのか、という興味が尽きない。
来年以降、どのような伸びしろを発揮するのか見逃せないコンビですね。
過去最高の大会、異端の大会、その次は…
昨年、ミルクボーイが歴代最高得点を打ち出して優勝し、過去最高の大会と評されました。
一転して今年、コロナ禍での開催も相まって異端の大会になりました。
いや、もしかしたら「異端」と呼べるのは今だけなのかもしれない。
「漫才」もまた定義を広げ、可能性を求め、ニューノーマルを模索している。
揺れる「漫才」の形が、来年はどこに向かうのか。
前述の通り、以前は正直苦手だったけれど、そんなマヂカルラブリーの優勝で、『M-1グランプリ』の展望が楽しみになった大会でした。
決勝全ネタをYouTubeで!?
最後にもうひとつ、今大会での新しい試みが興味深いので紹介─
M-1グランプリ公式YouTubeチャンネルでの決勝戦&敗者復活戦の全ネタ動画が公開されています!
これまで決勝戦本番に向けて盛り上げるために予選ネタ動画や、一定時間だけ敗者復活戦のネタ動画がアップされることはありましたが。
決勝戦のネタ動画が、惜しげもなくアップされていくのには驚かされました。
でも考えてみれば、ネタ動画は短くて手軽なため違法にアップされやすいジャンルでもあったので、公式自らアップしてしまうのは大胆かつ合理的な決断だったのかもしれませんね。
…とは言え、さすがに期間限定だと思われます。そう遠くないうちに取り下げられる前に、珠玉の漫才を2度3度と楽しませてもらいましょう!
マヂカルラブリー【決勝ネタ】最終決戦〈ネタ順2〉M-1グランプリ2020