かんづめステップ

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M-1世代更新と宿願…『M-1グランプリ2023』

先日、『M-1グランプリ2023』が生放送されました。

今年は12月24日(日)の放送となり、「クリスマスイブ決戦」の惹句が踊っていました。
この放送日は2015年以降のいわゆる第2期M-1が始まって以降、回を追うごとに年の瀬へと後ろ倒しになっています。

 

それだけM-1グランプリが持つ価値や格が上がってきた。
こんな年の瀬にチャンピオンを決定する形になっても、チャンピオンらがそのまま年末年始の特番に出演ラッシュできる態勢が出来てきたとも言える。

 

また今年は敗者復活戦のルール変更に伴って、こちらの放送時間も拡大。
敗者復活戦から決勝戦まで、インターバルを置くことなく15時から7時間近くにわたって放送。

翌日には『速報!M-1ネクストデイ』と題した密着番組を、ゴールデンタイムで2時間の生放送。

 

番組編成上の期待値としても例年にも増して極まった感のある今年のM-1グランプリを振り返っていきます。

 

令和ロマン…22年ぶりの異例王座

M-1グランプリ2023』チャンピオンに輝いたのは、令和ロマンでした。

 

natalie.mu

 

NSC首席」とデビュー間もない頃から名前を目にし、新元号発表と時を同じくしてコンビ名を変更したことも話題になりました。

広く頭角を現したのは、昨年のABCお笑いグランプリM-1グランプリ敗者復活戦でしょうか。昨年のM-1グランプリの記事でも名前を挙げていました
そして今年、ついにM-1グランプリ決勝進出!新世代の躍進に期待していました。

 

しかし笑神籤による出番順はトップバッター。

ああ、残念ながらこれは優勝は難しいな、でもしっかり爪痕は残して欲しい!…なんて杞憂はよそに、最後の最後まで暫定ボックスの椅子を守り続け、果てには優勝まで成し遂げてしまった。

トップバッターからの優勝は、初代M-1グランプリ2001の中川家以来の快挙。まさか、またこんな異例王座が実現するとは思いませんでした。

 

令和ロマンの漫才は、状況設定はオーソドックスながら手垢の付いたこの設定にまだこんな“ボケしろ”があったのか…と驚かされる発想力と表現力が絶品。

世界観を謳歌する高比良くるまのボケに、距離感巧みに喜怒哀楽を添える松井ケムリのツッコミ。

2人の独壇場が、決勝戦そして最終決戦の舞台でトップバッターからいきなり爆発していた光景に大笑いし、堪らなかった。

 

思えば霜降り明星の優勝から早5年。
■集大成と新世代が交錯する『M-1グランプリ2018』 - かんづめステップ

以降はミルクボーイ、マヂカルラブリー、錦鯉、ウエストランドとまた円熟味を輝かせるコンビの優勝が続きましたが。

ついに霜降り明星に次ぐ世代がチャンピオンに輝いた。交代…とまでは言わないにしろ、この世代更新劇も嬉しかった。

 

 

ずっと心地良いヤーレンズ

最終決戦の審査は4対3… あと一歩のところで準優勝となったヤーレンズ

この名が響き始めたのは、令和ロマンと同じやはり昨年のM-1グランプリ敗者復活戦だったという印象が強い。

 

飄々と小気味いい楢原真樹のボケと、そのボケに合わせて多彩な表情見せる出井隼之介のツッコミ。

審査員のコメントにもあった通り、いわゆる爆発を起こすような大笑いには欠けたかもしれない。けれどど聞いていて、ずっと面白い、ずっと心地良い、楽しい漫才だった。

 

漫才終わりの平場の掛け合いやネクストデイで見せた楢原の軽妙さとも際立っていた。

ケイダッシュステージ所属。賞レースの活躍ぶりとしても先輩たるオードリーやHi-Hiを彷彿とさせたし、2024年、間違いなく売れてくるだろうな。

 

散るか咲くか…さや香

昨年準優勝の大躍進を見せたさや香

近年、最終決戦に進出したコンビは翌年、ストーレートに決勝進出できないというジンクスもあったなか、着実に勝ち上がり、決勝戦そして最終決戦へと突き進む姿は圧巻。
実際、決勝戦で披露した「ホームステイ」は昨年とも遜色ない出来栄えだった。

 

波乱が起こったのは最終決戦。悲願の優勝まであと一歩というところで披露された、「見せ算」…?

 

石井ではなく新山から口火を切る幕開けに、なにか新しいことを仕掛けてきたな、と期待が高鳴った。

新山の「見せ算」なる訳の分からない弁舌に、石井が持ち前のスタンスで逆転してみせるターンが来るはず…という心持ちで待ち構えていたら、表面的な熱量こそありながらも爆発することなく終わってしまった。

正直、あちゃー、って感じだった…笑。

 

思えば、そもそもこういうコンビでもあるんだよな。

一昨年のM-1グランプリ敗者復活戦で騒然となった「からあげ4」しかり、これもまたさや香の持ち味の一端である。

石井の突飛な言動から始まっていく最近の漫才も、それに反論するあまり新山の言動のほうこそ次第に常軌を逸していく構成が大きな醍醐味だった。今回の最終決戦における「見せ算」は、「ホームステイ」という前置きを経て、最高潮に達した新山のターンだけがぶっ続く目論みだったと捉えることも出来る。

散るか咲くか。その差は目に見えた結果よりもはるかに紙一重の差だったのだろうと感じました。

 

さや香自身は、この状況をどう感じているのか。

ネクストデイをはじめ、様々なメディアですでに胸中が語られていますが、彼らがレギュラー出演している関西の情報番組『newsおかえり』による密着取材が楽しみ。昨年の準優勝の際も、この番組ならではの表情を捉えていたのが印象的だった。今大会の密着の模様は年明け放送のようです。(関西ローカルの話題で恐縮です…)

 

 

真空ジェシカモグライダーのジレンマ

今年は優勝を狙えるのでは、と期待していた真空ジェシカモグライダー
残念ながら結果は振るわず。

 

真空ジェシカは決勝進出3年目。

彼ら独特の言語感覚巧みなネタが、しかし構成上は伝わりやすく整理されていて、決勝3年目ならではの洗練ぶりを感じました。ヤーレンズと出番順が続いたことで、テンポ感自体は似たようなコンビが対照的に映ってしまったのが口惜しかった。

 

モグライダーは一昨年披露した「さそり座の女」の発展とも言える「空に太陽がある限り」。

テレビ出演が増えたことで、この曲を巡って掛け合うともしげと芝への愛着も増してて楽しい漫才だった反面、そこ止まりだった感は否めない。

ネクストデイではダンビラムーチョが歌ネタ被りしたことを気にしていた様子が映っていたけど。ここは正直、モグライダーのほうに歌ネタじゃない新境地を見せてほしかった。

 

 

新・敗者復活戦を制したシシガシラ

そういう意味で、今大会をもっとも沸かせた歌ネタは、間違いなく敗者復活戦でのシシガシラだったでしょう。

敗者復活戦の会場中を一体にし、共犯関係に巻き込んだインパクトは抜群。
最初に言葉ひとつ放り込むだけで、あとはつたない歌声に表情ひとつ添えるだけで次々笑いが起きてしまう光景は見事というほかなかった。

 

勝戦では同じ手は使えず、そこは如実に地力が出てしまって下位に沈みはしてしまいましたが。
この敗者復活戦と決勝戦での温度差ぶりも、いっそアッパレ!的な可笑しさで見事、今大会を盛り上げてくれました。
(敗者復活戦が屋内開催になって寒くなくなったのに温度差とはこれ如何に…?)

 

敗者復活戦のルール変更は、総じていい方向に作用していたと感じました。

自分的にはロングコートダディナイチンゲールダンス、ななまがり、フースーヤあたりがお気に入り。

世界観が奇天烈すぎるネタは必ずしも好みじゃないのですが、ななまがりはそれでもパワーワードの数々に持っていかれてしまう。
黒部ダムにポカリの粉を一袋いれて、世界一薄いポカリを富山県民に飲ませる活動をしております」…笑。

フースーヤは、『新しい波24』『AI-TV』の頃に変にプチブレイクしちゃって停滞していたけど。腐らずギャグ漫才を貫き通して、敗者復活戦の会場を沸かせるまでに至った光景が感慨深くもあった。

 

 

次回、20回大会 …まだ見ぬ悲願なるか宿願

M-1大好きです!来年も出ます!」
M-1グランプリの生放送ラスト、チャンピオンに輝いた令和ロマン・高比良くるまがこう叫んで番組を締めくくっていた。

 

M-1グランプリは来年開催されれば、第20回大会の節目になります。
これまで19組のさまざまなチャンピオンが誕生してきましたが、まだ連覇を果たしたチャンピオンはいません。
第1期M-1グランプリにおいて、フットボールアワーNON STYLEパンクブーブーがチャンピオンになって以降も参戦し、最終決戦まで再び駒を進めるなど連覇に限りなく近づいたことはありましたが阻まれてきました。

 

近年はチャンピオンになると「上がり」という様相が色濃く、再挑戦したコンビはいなかった。
チャンピオンの価値も、第1期の頃よりも上がっており、むしろ出ちゃいけないことになってるのかな…とも思っていた。

 

そこに来て令和ロマンのこの宣言。
まだ本当に翌年も参加するのかなんて分かりませんが、「チャンピオンは再挑戦しないもの」という空気感に先鞭を付けたのは確か。

 

新たな若きチャンピオンの2024年の動向、そして一人勝ちはさせまいと好敵手が立ちはだかるのか。
第20回大会に向けて、来年どうなるのかが一層楽しみになった大会でした。