気付けば師走。今年も『M-1グランプリ2022』の季節がやって来ました。
毎年、何かしらの感慨を書いてきたので、今年も思ったことを書き残しておきたいと思います。
昨年は錦鯉が優勝を飾りました。(昨年のブログ記事はこちら)
歴代最年長の栄冠という衝撃で、M-1グランプリの有り様をさらに広げた。今年は、その流れを受けてか現在のM-1グランプリだからこその選考、そしてチャンピオン誕生だったと感じました。
それでは見ていきましょう。
波乱の予選
決勝戦を見ていく前に特筆したいのが、いつにも増して顕著だった予選の波乱ぶり。
期待の人気コンビや躍進を期する決勝戦経験コンビが、準決勝はおろか準々決勝で敗退していくニュースが都度、話題に上がっていました。
見取り図、インディアンス、ランジャタイ、モグライダー、金属バット(のちにワイルドカード枠で復活)… こういった面々が準々決勝敗退というのは衝撃でしたね。
もちろん、その日の出来栄えや厳選な審査があったであろうことは大前提として。
現在の「M-1グランプリ」の看板であれば、すでに人気を勝ち得たコンビに頼らざるとも変わらぬ盛り上がりを発揮できる。
仮に決勝進出者9組+1組がもっと無名なコンビだらけであろうとも訴求できる、という自負を感じました。
言い換えれば、それはM-1グランプリの「権威」性が高まっていたということでもあるワケで―
ウエストランドの一矢
だからこそ、M-1グランプリへの思いを「うざい」の一語に込めたウエストランドが、皆の心を捉えたと言えるんじゃないでしょうか。
あるなしクイズと言いながらその実、井口が思いの丈を咆哮していく漫才。
時に核心を突いて共感を呼びつつ、次第に偏見や僻みの色を帯び始めていくバランスが、あるなしクイズをひな型に構成されていたのが巧みだった。
単に毒舌なのではなく、同時に自虐でもある。
先述のM-1グランプリを「うざい」と言い捨てた一幕も、ウエストランド単体はもとより、一歩引いて『M-1グランプリ』という番組単位で見たときに、これもまた自虐の形になっているのが功を奏している。
その直前のやり取り…「M-1には夢があるけど、R-1にはない」のくだりで終わっていたら、それこそ『M-1グランプリ』としては太鼓判を押しづらかった気がします…苦笑。
ウエストランドとしてもM-1グランプリとしても、今このタイミングしかないという巡り合せを感じました。
正直、従前のイメージも相まってウエストランドが優勝するなんて想像外でした。
そんな立ち位置だったからこそ、下から上への毒舌・僻みが気持ちよく響かせられた。
これから王者の漫才として見られたとき、この毒舌がどう作用するのかが気になるところです。
まあ、お笑いファンのウゼえ分析ですが…笑。
さや香、ロングコートダディの台頭
前評判から一番期待していたさや香、1stラウンド、最終決戦ともに面白かった。
以前とはボケ・ツッコミを入れ替え、新山のキャラをツッコミとして活かしつつ、石井のボケ・暴論を正そうとするあまりツッコミとしても行き過ぎてしまう。特に1stラウンドで披露した「免許返納」はその着眼点も含めて、無駄のない完成度で最高だった。
この試行錯誤と洗練ぶりは、『THE MANZAI 2012』を制したハマカーンを思い出した。
2年連続決勝進出のロングコートダディ。
Wボケのキャラ展覧会を抜きつ抜かれつ「マラソン」という舞台設定で魅せたのがスマート。最初に立ち返る趣向も心憎い。
最終決戦で披露した「タイムマシン」もユニークな設定と兎の叫びがクセになった。一方で最後は畳み掛けるように「江戸の仕草に見えて現代」、あるいは「現代の仕草に見えて実は江戸だった」パターンをもっと見たかったかな。
さや香、ロングコートダディともに、フジテレビのお笑い発掘番組「新しい波24」のメンバー。
お笑い第7世代…って言葉は大概死後になって久しいですが、その筆頭たる霜降り明星に続いて最終決戦に顔を揃える姿は、「新しい波24」好きにとっては嬉しかったり。
優勝まであと一歩、来年の雪辱に期待したい反面―
オズワルド、敗者復活戦を制すも…
近年、最終決戦進出者が翌年以降のM-1で奮わないジンクスが続いている。
ぺこぱ、見取り図、インディアンス…
チャンピオンに留まらず、2位3位のコンビもブレイクしていくが故に、漫才やネタに割ける時間も限られてしまうというジレンマが生まれているのも一因かと思われます。
オズワルドもその例外ではなく、敗者復活戦こそ勝ち抜いた巧者ぶりは健在でしたが、昨年の完成度を思うとパワーダウンしていたのは否めない。
そういう意味では、第7世代よりもうひとつ次の世代?… 令和ロマンの敗者復活も見てみたかった。(いや、今年ハンパに敗者復活するのではなくきちんとストレートに決勝進出できるのを期するほうが良いか)
ヨネダ2000の旋風
それを言うならもっと新世代、ヨネダ2000が決勝進出を果たしているんですよね。
弱冠2年目。女性コンビのM-1決勝進出という観点でもハリセンボン以来、13年ぶり。つい先日、『THE W 2022』決勝戦でも闘ったばかりで今度はM-1グランプリ決勝戦という快進撃。
ひとことで言うと、ヨネダ2000ワールド全開。
ごめんなさい、個人的な嗜好で言えばちょっと首を傾げちゃうのが本音ですが、これをM-1グランプリ決勝戦の舞台で全うし、高い評点を得ている光景が鮮烈だった。
ふと思い出したのが、『M-1グランプリ2002』のテツandトモ。
その時とは真逆の境遇だったと言うか。M-1グランプリとしてテツandトモを決勝進出させたことと今回、ヨネダ2000を決勝進出させたこととは文脈が違うだろうし、また会場や審査員への受け入れられ方も違った。
当時、審査員の立川談志が、テツandトモの芸そのものを評価する意味で70点という採点とともに「お前らはここに出てくるやつじゃないよ」と言ってのけたのに対して、今回、立川志らくがヨネダ2000に97年の高得点を配したのも象徴的。*1
ちょうど20年、M-1グランプリが辿ってきた変化の一端ですね。
M-1グランプリに向けた本領とのすり合わせ
ヨネダ2000がそれほど好みじゃない…と言うなら、好きなタイプの面々。
カベポスター、ダイヤモンド、キュウ。これまでもほかの賞レースやネタ番組、あるいは前年までの敗者復活戦で披露してきた漫才が面白かったので今年、待望の決勝進出だった。
それだけに結果が奮わなかったのは残念…。
その日の出番順とか運とかもあったでしょうが、もう一つ。やはりM-1グランプリ、決勝進出というものにアジャストして漫才を作り続けたときに彼らの本来の持ち味がわずかながらでも損なわれていたんじゃないかなあ、という気もしました。
そういう点では、男性ブランコの漫才が意外だった。
「音符を運ぶ」という突拍子もない独特の設定はもとより、そのマイム・動きの面白さが光っていた。ヘタしたら、昨年のキングオブコント決勝出場時のコントよりも動きが見せ所だったんじゃないか、って言う。一方で、男性ブランコらしい漫才じゃなかった、という声も聞きます。
ここら辺、今回の結果が功を奏したにしろそうじゃないにしろ。翌年以降、持ち味とM-1グランプリとのすり合わせで、さらなる躍進を遂げることに期待したい。
実際、2年連続決勝進出だった真空ジェシカはさらに磨きがかかっていた。
「M-1もうざい、アナザーストーリーがうざい」
…と言うことで『M-1グランプリ2022』、今年も面白かったです。
ウエストランドの漫才、そして優勝は、近年築いてきたM-1グランプリの定義や権威を突いたカウンターのようで痛快でもありました。
そんなウエストランド・井口が、M-1グランプリの密着カメラにどんな言葉を残し続けていたのか。編集スタッフは、それをどんなドキュメンタリーに仕上げるのか。
今年はより一層、『M-1グランプリ2022 アナザーストーリー』の放送が楽しみになりました。放送は、12月26日(月) 23時15分~。
言ってもこれまではM-1グランプリ本編を見た人全体のなかでごく一部のお笑いファンだけがチェックしていたであろう「アナザーストーリー」の名を、最終決戦ド真ん中で叫んだってのはこれまでにない関心を持たれているのでは。
引いては、M-1グランプリの有り様にもまた変化をもたらすかもしれない。
漫才師にとって、避けては通れぬM-1グランプリという存在。
夢舞台であり、それに向けたネタ作りや合否に悩まされ続ける「うざい」側面も垣間見えた。
来年のM-1グランプリは、そんな「うざい」を乗り越えた先にネタを完成させ、今度はどんな漫才でセンセーショナルを起こすのか。
気が早いけど、終わりのないドラマとして引き続き楽しみです。